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感染対策をスイスチーズモデルで思考して、クラスター(集団感染)を予防する方法


先日、沖縄県は独自の「緊急事態宣言」が発出され、私たちの環境は自粛から自衛へフェーズが変わり仕事やプライベートを過ごす上で緊張感が増し感染のリスクを避ける自衛を考える方も多いと思います。特に事業を経営する経営者の皆様は、職場のクラスター(集団感染)の予防策に関心が強いのではないでしょうか?

 

今回は、職場のクラスター(集団感染)のリスクマネジメントに役立つ「スイスチーズモデル」を解説します。

スイスチーズモデルは、事故発生のメカニズムを説明するものとしてよく使われるもので、スイスチーズモデル(Swiss cheese model)は、マンチェスター大学のジェームズ・リーズンが提唱した、航空安全、工学、医療の場などで用いられるリスクマネジメントおよびリスク分析の基礎概念です。


スライスしたチーズはところどころに穴が開いています。このチーズを何枚も重ねていきます。2枚目で穴が塞がれる場合もありますし、5枚目で塞がれる場合もあります。

 

では、交通事故の発生リスクを例にあげます。

 

チーズの1枚1枚は安全対策(防御壁)を示しています。1枚はドライバーの安全運転対策、1枚は相手の安全対策、1枚は道路の安全対策、1枚は車の安全対策といった具合です。

  チーズの穴は、「安全確認を少し忘れる」、「道路の一部にくぼみがある」「タイヤの空気圧が低くなっている」などの事故に結びつく危険要因と考えてください。

 


チーズの枚数が少なかったり、どこかのチーズを動かしたりすると、偶然最後まで穴がつながってしまうことがあります。この最後まで穴がつながってしまう状態が事故というわけです。

 

 

穴がつながらないようにする、つまり事故を防ぐためには、安全走行の基本を守ってチーズの枚数を増やすようにしなければなりません。

では、次に職場のクラスターに着目した感染対策に置き換えて安全を確保する方法を考えましょう。

 

感染対策の基本は

・持ち込まない

・持ち出さない

・広げない

 

 

クラスター発生を回避するためには、上記を意識した対策が必要です。

ここでは隙間が最後まで通じてしまう状況を職場の集団感染と捉えます。それを防ぐための防護壁として、次の4つの防御壁を職場内で徹底することが重要です。

 

・マスクの着用(Face Covering

 

・社会的距離の確保(Safe Distancing

 

・従業員の症状チェック(Symptom Checking

 

・定期的な職場の換気 (Ventilation

 

 

イメージとしては一つ一つが感染リスクの防御壁となります。

「マスクの着用」だけでも効果は高そうに感じますが、職場で終日過ごすうちに、いつの間にかずらしてしまったり、外してしまったりすることもあるでしょう。100%の着用を従業員に求めることは難しい部分もあるかと思われます。そこで、不適切なマスク着用による隙間を埋めるための別の防護壁が必要になるという訳です。

「社会的距離の確保」だけでも効果は高そうですが、職場で終日過ごす中で常に2mの距離を保ち続けることは困難でしょう。何かの拍子に距離が近づくことは当然起こりうる話です。また、医療機関や介護・福祉事業所などは密着してサービスを提供する機会が多いことから「社会的距離の確保」を遵守しては仕事に支障を来してしまいます。ここでも隙間を埋めるための別の防御壁が必要になります。

「従業員の症状チェック」だけでも日々行うことで高そうに感じますが、WHOや感染対策専門家などの報告によると無症状感染者による伝播の可能性もあります。ここでも隙間を埋めるための別の防御壁が必要になります。

「定期的な職場の換気」だけでも高そうに感じられますが、換気は対角線上の吸気口と排気口を設けることが効率かつ効果的な換気と言われています。建物の状況により物理的に困難な場合やヒューマンエラーで換気を忘れてしまうこともあり、ここでも隙間を埋めるための別の防御壁が必要になります。

このようなことから、単独の対策だけで十分ということはなく、いくつかの対策を重ねていくことで職場の集団感染リスク管理がより効果的なものになる(隙間が埋まっていく)ということが言えるでしょう。また、従業員の教育・指導もリスク回避の壁として有効です。感染対策を実践する上で、新しい科学的根拠に基づいた知識と技術の習得はレベルの高い施策につながります。

 

とはいうものの、やみくもに防護壁を重ねるのは避けた方がよい場合もあります。例えば、ある程度の社会的距離が確保され流行が落ち着いている地域において、常時マスクとフェイスシールドの着用を求める場合など、防護壁を重ねすぎることで熱中症など他のリスクを招いてしまうこともあります。状況に応じて重ねる防護壁の数や内容を検討してみることも重要と言えます。

 

前職で医療機関の感染対策チームとして活動した経験から述べると、「感染対策」に完璧はありません。日々のヒューマンエラーを見直し、新しい効果的な方法を取り入れレベルアップすることが重要です。

また、感染対策はコストが必要で、設備投資や消耗品、消毒薬、検査費用など費用が重なり経営を圧迫します。

 

一番は持続可能な経費の確保で有効な対策を実践することです。